TBSによる世田谷区ネット依存報道に関する意見表明

我々は、2023年7月6日TBSのNスタ内での報道、及び、インターネットに公開された2つの記事について、以下の通りマスメディアの報道姿勢としての大きな科学的・社会的問題と責任があると考えます。

1. 中学生の5人に1人が“ネット依存の傾向にある” 子どものネット依存に警鐘 調査結果公表 東京・世田谷区|TBS NEWS DIG
https://www.youtube.com/watch?v=ePvaxv8jnP0

2. 中学生の5人に1人が“ネット依存の傾向にある” 子どものネット依存に警鐘 調査結果公表 東京・世田谷区
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/587126 

3. 中学生5人に1人ネット依存の傾向 東京・世田谷区が大規模調査 区内の小中学生約3万4000人が回答
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/585486

まず、記事2においては、「厚労省が採用しているネット依存の傾向を調べる際の8つの項目」とあり、ここから5つ以上が当てはまると「ネット依存の傾向がある」とされています。確かに、この8つの項目は、厚生労働省の委託研究において研究者が使用したものではあります*。

しかし、厚生労働省 健康局健康課 社会・援護局障害保健福祉部 精神障害保健課 依存症対策推進室に対して確認したところ、厚生労働省として

指摘の8項目による手法を採用しているという事実はありません

という回答を得ました。

厚生労働省が研究費を補助して行われた研究の一つにおいて研究者が示した見解と、厚生労働省という行政府の公的な見解というものは、明快に弁別されていなければなりません。それ故、この記事において「厚労省が採用」と記述したことについては、明快な誤報と言えるでしょう。

さらに記事3においては、識者が「コロナ禍でネットに触れる時間が増加したことも影響し、ネット依存の傾向がある子どもが増えているのではないか」と分析されています。この識者の見解についても、厚生労働省が、コロナ禍とインターネット依存との関係についてどのように把握をしていのるかを問い合わせました。しかしながら、厚生労働省は、

インターネット依存について定義しておらず、疾病や精神障害であるとは認識しておりません。このため、ご指摘の識者の見解について、認識を回答することは困難です

と回答しています。ICD-11において、ゲームに関しての依存症である「ゲーム行動症」が精神疾患として収載されたものの、ネット依存症やそれに類するものは精神疾患とは認められていません。インターネット依存という病気ではないものを病気のように取り扱うことは誤りですし、そしてそれがCOVID-19という大規模な社会的課題となった病気とも関連があるかのように述べるというのは、マスメディアとして非常に問題のある報道姿勢と言えるでしょう。

報道各社におかれましては、研究者個人の見解や政府としての公的な発表、世界中の研究者で合意した国際的な診断基準などを適切に弁別し、不足する場合は所管官庁である厚生労働省や関連する研究者に対して過不足ない取材するよう心がけ、報道内容が科学的に正しく社会にとって意義あるものであるかを十分検討の上で、正確な報道を行っていただけることをお願いするものです。

以上。


注 * 厚生労働科学研究費補助金各研究事業「飲酒や喫煙等の実態調査と生活習慣病予防のための減酒の効果的な介入方法の開発に関する研究」