本学会は行動嗜癖(behavioural addiction)という概念で示される現象とそれにまつわる社会状況の調査・研究を行い広く社会への説明責任を果たすために作られました。
一般的に行動嗜癖とは、薬物などの物質性ではない嗜癖や依存的行動のことを指し、例えばゲーム、ギャンブル、インターネット、スマートフォン、SNSをはじめ、買い物、セックス・自慰行為、窃盗、性的逸脱行為、過食・嘔吐、放火など、人間の数多くの行動を包含する概念として提唱されているものです。行動嗜癖の視野は人間のありとあらゆる行動を含むことができます。社会が適度と見做すれるころで止められない個人の行動を幅広く精神疾患化できる可能性を秘めた概念と言えるでしょう。
それゆえに、行動嗜癖をめぐる状況は争議的です。
精神医学の主たる2つの診断基準である世界保健機関 (WHO)のICD-11とアメリカ精神医学会のDSM-5-TRは、いずれも診断基準として行動嗜癖を採用していません。DSM-5-TRでは「行動嗜癖という言葉を用いてより極端な症状を記載する臨床家もいる」「この語の定義が不明確であり、潜在的に否定的な意味を内包している」と否定的立場がわざわざ明記され、ICD-11も同様の立場を取ることがWHOによって表明されています。
しかし一方で、行動嗜癖に関する研究論文は毎年何千本と書かれています。また、ゲーム、スマートフォン、SNS、ギャンブルの嗜癖的行動に関しては、一般書籍や新聞・ネットメディアをはじめ多くの記事が書かれています。その中には、科学的エビデンスに乏しいものが多く含まれ、正しい科学的知識に基づいた議論がされているとは言いがたい状況にあります。
科学的に正確な理解が深まらないまま刺激的で不安を煽る言葉ばかりが多く世に流されてしまうという不均衡は、可能な限り解消するべきでありましょう。行動嗜癖の研究は途上であり、研究者には研究を今以上に推進していくのみならず、大勢の理解を涵養していくことが必要です。一方で、この概念が精神医学だけではなく、社会にとって有益なものであるのかを吟味することも忘れてはなりません。そのうえで、科学的エビデンスを欠いた言論への警鐘を鳴らすことも必要とされています。これらのアジェンダは研究者にとっての使命であり責務でありまた希望でもあり、本学会はその遂行の場として設立されました。
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