ゲーム行動症勉強会 第2期第4回 開催

2023年3月31日(金)にゲーム行動症勉強会の第2期第4回が参議院会館にて開催されました。山田太郎事務所、赤松健事務所、本学会の共催で実施されました。

発表は、本会理事の河本泰信氏(よしの病院)、本会理事の井出草平氏(多摩大学 情報社会研究所)によって行われました。

河本氏の発表

河本氏はアルコールやギャンブルへの治療に医師として長年関わられた方で、久里浜医療センターにも長年勤務されておりました。

河本氏は久里浜医療センターを含め日本で依存症医療の骨格となっているプログラム治療の限界を指摘されました。

現在の認知行動療法を中心とした、アルコール依存症の場合、断酒に至るのは3割程度です。

一昔前の、依存症治療では、山道を歩く行軍治療、箸を箸袋に入れる作業療法などが採用されており、科学的エビデンスはなかったものの、やはり3割程度の寛解率で、認知行動療法が導入されたことで改善したわけではないと指摘されました。

また、認知行動療法が効果的だと言っても過半数の人は改善をしておらず、誰にとっても有効な治療は存在しません。本来は個人との特性に合わせた治療方針を立てるため、いくつかのタイプに分ける、多元的な治療を行うべきだと河本氏は述べました。

「治療プログラム」は科学的エビデンスを伴うものも含むため、外見上は非常によいもののように見えます。しかし、一つの方法が万人に合うわけではないということを考えると、「治療プログラム」という方法論には限界が見えてきます。患者さんの個々の特性に合わせた治療が必要とされています。

井出氏の発表

井出氏は「入院」そのものの治療効果と診療報酬について指摘しました。

久里浜医療センターではアルコール依存症の入院は男性3カ月、女性2カ月インターネット依存症の入院は2カ月を標準的なプランとして提示しています。しかし、アメリカ精神医学会のガイドライン(ISBN-13 ‏:‎ 978-0890426821)、イギリスのNICEガイドラインをはじめとして、先進国におけるアルコール依存症の治療で入院は治療方法として掲載されていません。1970年代に海外では入院の効果がないことが明らかとなっているからです。

アルコール解毒(アルコール依存症で常時飲酒をしている人から、薬物としてのアルコールを抜く治療)はアメリカのメディケアでは2〜3日、最大5日、リハビリテーションは16〜19 日間とし、合わせて3週間の入院期間が合理的と述べられています。

厚生労働省の回答から判明したのは、久里浜医療センターではアルコール解脱など離脱症状の治療を目的とした内科的治療(約3週間)、「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン(2018)」に準じた形でリハビリテーションとして2カ月から3カ月の入院を進めている、ということでした。

アメリカ人と日本人のあいだに多少の差異はあったとしても、アルコール解毒に必要とされる期間があまりにも違います。また入院には治療的効果がないことが科学的に明確である以上、日本も国際水準に近い医療サービスの提供が求められるのではないかという指摘が行われました。

「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン(2018)」は久里浜医療センターの樋口進院長(当時)が理事長をつとめるアルコール関連問題学会と、日本アルコール・アディクション医学会が中心にまとめたものです。このガイドラインは厚生労働省の科研事業「アルコール依存症に対する総合的な医療の提供に関する研究」を経て作られたもので、単なる業界団体の指針ではなく、厚労省の指針でもあることが重要です。

診療報酬を受ける者がガイドラインという形でルール作りをしている、と指摘されかねない構造になっていることが分かります。

入院期間を長くすることは病院にもメリットがあります。久里浜医療センターのように外来と入院を行っている精神科医療機関では入院による収益が約8割だと言われています。久里浜医療センターの令和2年度の損益計算書を見てみましょう。

医業収益単位(円)医業収益に占める割合
入院診療収益2,229,609,62082.5%
室料差額収益12,239,9100.5%
外来診療収益408,036,29615.1%
保健予防活動収益2,792,0420.1%
その他医業収益49,964,4841.8%

久里浜医療センターも83%程度が入院による収益であることが分かります。

日本各地に存在する病棟を備えた精神病院の多くは、人口の1%程度の発症率であった統合失調症の患者さんたちを入院させるための施設として作られました。しかし、近年は統合失調症の発症率が激減し、新規に入院する患者さんが減っています。

https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000940708.pdf

病院経営という面からも入院患者の減少は大きな問題として捉えられており、空きベッドが全体2割を超えたあたりが採算ラインという病院が多く、入院患者を増やすことが病院経営にとっての課題とされています。

現在の制度は、診療報酬で利益を得る者がルールを作っているように見えることからも望ましい形とは言えず、利益を得ない者も参加する幅広いステイクホルダーによって、ルールづくりがされることが求められていると指摘されました。。